
村上春樹の作品を個人的に一言で表すと「文章の麻薬」。
これだけ売れて世界的にも有名なのに人にすすめる時、これだけ説明しにくいというのも珍しい。
結局、「なんか、とにかくすごい」か「すごく面白い(好き嫌い分れるけど)」ぐらいしか言えない。
あえて文字で言うなら「不思議な世界観を性場面を多用しながら、やや不快感を含め、魅力的に描いている」。
長編小説として前作の「海辺のカフカ」も「不思議だけど、なんか面白い」という未体験の衝撃を受けたんですが、今作も同じく読み出したら止まらない感じでした。2巻で1000ページ超もあるのに。
この「1Q84」、最初どう読むのかなと。IQ84(アイ・キュー・84)、ワンキューエイトよん、とか考えてたんですが、シンプルにイチキューハチヨン。丁寧に読み方までロゴを打っている。
文学に限らず世の作家達って、情熱注いで作った物の判断は受ける側に託すというある意味宿命みたいなものがあるんですが、悪い意味でのそういう突き放す感覚がこの作品には、例えば表題の読み方も併せて少ない。ま、内容自体が不可解な世界なので突き放すも何もないんですが、読み手として説明不足という感想をあまり持たせないんですね。
目的の一点に向かいながらその目的地は絶えず収縮をくりかえしてる状況であるが、整理されてない混沌とした世界でもない。そういう展開です。
村上春樹はインタビューで1980年代をひとつの区切りとして描かなくてならないという想いがあったというようなことを言ってましたが、集大成という印象が確かにこの作品には感じられました。彼の持つ文体の確立といった印象と共に。
戦後の好景気から2000年へと向かう過程で、オウム事件に代表される思想の転換期(終末期とも言える)を描いた断片の書と言えなくもない(かなり強引な言い方ですが)。
続編も注目です。
初めて読むなら「海辺のカフカ」の方がおすすめですけど。